今年から日本プロ野球に採用された新しいルールがコリジョンルール(collision rule)。コリジョンとは衝突という意味で、端的に言えば、衝突禁止のための規則というところでしょうか。
2016年から日本プロ野球で採用された新ルールですが、物議を醸しています。コリジョンルールもそうなのですが、今回はコリジョンルールを題材にして、プロ野球界のルール変更の歴史を少し考えていきたいと思います。
ブロック禁止のコリジョンルール
野球では、過去、ホームでの衝突が何度もありました。これは捕手が「ブロック」をするために起こるもの。ブロックとは、捕手が、ベースやや前に立って、相手がホームペースにスライディングしてくるところに、左足を下げてランナーがホームにスライディングするのを防ぐもの。もしくは体を正面から90°回転させて、相手がスライディングしようとするのを体で止めるもの。
いずれにしても、捕手が相手のスライディングを体を使って止めるというもので、ランナーからすればホームを踏むことができないため、まさにホームを「ブロック」された状態になります。
ランナーはどうするかというと、ブロックされたところを回避するために回り込んでホームベースにタッチするか、もしくはキャッチャーが邪魔なのでそのままぶつかっていくしかないです。回り込む場合は特に問題ないですが、キャッチャーにぶつかっていく場合、スライディングだと弱いので、どうするかといえば、体当たりでぶつかっていきます。ランナーが走り込んでキャッチャーに体当たりする。これが「衝突」にあたり、今回のコリジョンルールで禁止されるべきものです。
理由は危険防止
体当たりするのは非常に危ないことで、体と体がぶつかり合うので、単純に怪我する危険性も高いのですが、一番危険なのは脳震盪。脳への影響があり、最悪は死亡につながってしまうので、防いでいかないといけません。
スポーツというのは安全にできることが重要です。その意味では、危険性を排除するためにコリジョンルールができるのは良いことだと思います。
コリジョンルールの解釈
そんなコリジョンルールですが、野球規則上はどうなっているのでしょうか。2016年1月の改正を見ると以下のようになっています。
6.01(i)(【原注】および【注】含む)を追加する。
(i)本塁での衝突プレイ
(1)得点しようとしている走者は、最初から捕手または本塁のカバーに来た野手(投手を含む、以下「野手」という)に接触しようとして、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路から外れることはできない。もし得点しようとした走者が最初から捕手または野手に接触しようとしたと審判員が判断すれば、捕手または野手がボールを保持していたかどうかに関係なく、審判員はその走者にアウトを宣告する。その場合、ボールデッドとなって、すべての他の走者は接触が起きたときに占有していた塁(最後に触れていた塁)に戻らなければならない。走者が正しく本塁に滑り込んでいた場合には、本項に違反したとはみなされない。
【原注】走者が触塁の努力を怠って、肩を下げたり、手、肘または腕を使って押したりする行為は、本項に違反して最初から捕手または野手と接触するために、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路を外れたとみなされる。走者が塁に滑り込んだ場合、足からのスライディングであれば、走者の尻および脚が捕手または野手に触れる前に先に地面に落ちたとき、またヘッドスライディングであれば、捕手または野手と接触する前に走者の身体が先に地面に落ちたときは、正しいスライディングとみなされる。捕手または野手が走者の走路をブロックした場合は、本項に違反して走者が避けられたにもかかわらず接触をもくろんだということを考える必要はない。
(2)捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
【原注】 捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていたであろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。
【注】 我が国では、本項の(1)(2)ともに、所属する団体の規定に従う。
とても長いですが、まとめると以下のような感じです。
- ランナーは捕手(またはホームカバーの野手)にぶつかってはダメ
- 捕手はボール持たずにブロックしたらダメ
- 捕手が送球を取ろうとして結果的に走者を防いだのはOK
- ただし捕手はスライディングするランナーに激しい接触はしないようちゃんと努力してね
ルールには解釈が出てくる
で、実際2016年シーズンが始まると、やはりというか問題が生じてきています。そもそもルールや明文化されたものには解釈が生まれます。実際に起こる事象というのは明文化されるルール程単純化されたものではなく、どちらでも説明がついたり、一部分は当てはまるけど、当てはまらない部分もあります。これはどんなにルールを明確に文章化していってもつきまとうものだと思います。
となると、そこで解釈が出てきます。「今回のケースはこういう風に解釈していきましょう」とか「ルールの趣旨に則って考えると今回はOKとします」みたいに、できたルールを実際の事象に当てはめていくための解釈です。この辺りは、法律があって、それで何か争いごとが生じた際に、裁判所がその事象が法律に則って解釈するとどうなるかを判断するのと形式的には同じです。
これを野球では審判が行うのですが、それが審判ごとに解釈が異なってしまうともめてしまいますね。なので、できるだけ統一すべきで、それができれば揉めることも少なくなってくるかと思います。
プロ野球のルール変更の歴史
さて、そんなコリジョンルールではあったのですが、ちょっと話をガラッと変えて、過去にプロ野球界で起きたルール変更の歴史を少し見てみましょう。歴史と言ってもそれほど多くはなく笑、今回は個人的に覚えている範囲内ということで2つのルール変更を考えてみたいと思います。
ストライクゾーンの変更-2002年
2002年にプロ野球でルール変更がありました。それが新ストライクゾーンというもの。そもそも野球規則では、こうなっています。
打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間”
ただ、実際のストライクゾーンは、下はひざあたりが下限、上はベルトあたりが上限となっていました。そのため、上限を野球規則に則って高くしようというのがこの2002年のルール変更です。当時は、ストライクゾーンがかなり高くなったという印象を持っています。これまでなら高めのつり玉レベルのボールでもストライクとなった印象でした。個人的にはこの年も開幕前からこのストライクゾーン変更で話題になっていて、各チーム対策していた記憶があります。
2段モーションの禁止-2006年
これも記憶に残っているルール変更の1つです。こちらは覚えている人も多いのではないでしょうか。投球する際に、途中で一回ストップしてから再度動き出すモーションを2段モーションと呼びます。野球規則上では、下記のようになっています。
打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。
ということで、野球規則上では途中で止めてはいかないので2段モーションはできないはずなのですが、それまでは普通に2段モーションで投げている選手がいました。そこでこれを厳格に禁止したのが2006年です。この影響を受けたのは、当時楽天の岩隈選手や横浜の三浦選手。2段モーション禁止のため、フォーム変更を余儀なくされたシーズンでした。少しでも止まっていたら2段モーションになるということで、こちらもシーズン前からかなり話題になっていた変更でした。
当時のルール変更は今どうなったのか?
そんなルール変更ですが、では今どうなっているでしょうか。高めへのストライクゾーン変更は気付けば、元に戻ってしまっていますし、あれほど厳しくなっていた2段モーションも気付けば「これって2段モーションになってない?」というのも見かけるようになってきました。
ルール導入前はあれほど話題になっていたことで、シーズン開始してからも野球が変わるという話をしていたルール変更が翌年あたりからはそれほど話題に上がらず、気付けばなし崩し的になっている気がしています。
コリジョンルールも2017年以降はなし崩しに?
それらをふまえると、ひょっとするとコリジョンルールも来年以降はなし崩し的になくなってしまうのではないかという気もしてきます。さすがに体当たり復活はないとは思いますし、明確なブロックはしない気はしていますが、明らかなアウトに見えるものでもコリジョンルールでセーフになることはなくなっていくのではないかと思います。
ルール変更後の再変更をなし崩しにするな
で、今回の話を通じて僕が言いたいことは、ルール変更後の再変更をなし崩しにするなということです。過去の例を見ても、ルール変更のあったシーズンは厳格すぎるほどに厳しく採用していたルールが翌年以降どんどんなし崩し的になくなっていってしまうことがプロ野球では多々あります。
個人的に一度作ったルールを再度元に戻すことに反対はないです。というより、ルールが良くなかったら常に変更していけばいいですし、変えたのが悪かったら元に戻すのもありだと思います。ただ、それをやるなら明確にしてほしいということです。
間違ったルールを作ってしまったなら、元に戻しますでいいじゃないですか。それをせずに気付いたら元に戻っているとなると、あのルールとは何だったのか?となってしまいます。
今回のコリジョンルールにしても、明らかにアウトに見えるものがセーフになるケースがあったなら、そこは修正していけばいいはずです。でもそれをなぁなぁで変えていくのではなく、「次のシーズンからは明らかにアウトとなるケースはコリジョンルールを適用しない」、として変更して運用していけばいいでしょう。
ダメだったものは明文化して改善していく。これが大事なことだと思います。なし崩し的に変えていくのはもうやめにしましょう。
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