イギリスは本当にEUを離脱できるか調べてみた。

調べてみたシリーズ

イギリスが国民投票の結果、EU離脱派がEU残留派を上回って勝利しました。この結果、イギリスではキャメロン首相が辞意を表明。日本でも円高に株価下落と大きな影響を与えています。

また、これをきっかけに再びスコットランド独立が懸念されたり、あるいは北アイルランドがアイルランドへの統合を目指すのでは?などイギリスの体制自体も再び揺らぎ始めました。

そんな中、個人的な疑問点が浮かんできました。

そもそもEUって離脱できるものなのか。

というわけで、イギリスは本当にEUを独立できるのかを調べてみました。

そもそもEUって何?

その前にそもそもEUとは?ということから見てみましょう。おそらく社会の時間に習った記憶がある方が多いと思いますが、少し確認しときましょう。

1952年

ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が設立

加盟国(6カ国):フランス、イタリア、西ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ

1957年

EEC(欧州経済共同体)Euratom(欧州原子力共同体) が発足

1967年

ECSC、EEC、Euratomが統合され、EC(欧州共同体)が設立

1973年

イギリス、アイルランド、デンマークがECに加盟(9カ国に)

1981年

ギリシャがECに加盟(10カ国に)

1986年

スペイン、ポルトガルがECに加盟(12カ国に)

1992年

欧州連合条約(マーストリヒト条約)調印

1993年

EU(欧州連合)発足(加盟国:12カ国)

1995年

オーストリア、スウェーデン、フィンランドがEU(欧州連合)に加盟(15カ国に)

2002年

欧州単一通貨であるEURO(ユーロ)が流通開始。イギリス、スウェーデン、デンマークは適用除外

2004年

旧社会主義国の東欧含む10ヶ国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、エストニア、リトアニア、ラトビア、マルタ、キプロス)がEU加盟(25カ国に)

欧州憲法条約が調印

2005年

フランスとオランダの国民投票で欧州憲法の批准が拒否されたため、欧州憲法は未発行

2007年

ブルガリア、ルーマニアがEU(欧州連合)に加盟(27カ国に)

欧州憲法拒否のため、欧州憲法に変わるリスボン条約(改革条約)調印

2009年

リスボン条約(改革条約)発行

2012年

EUがノーベル平和賞受賞

2013年

クロアチアがEU(欧州連合)に加盟(現在の28カ国に)

 

歴史的には上記のような流れで進んでいます。見ての通り、EU発足以降は基本的に加盟国を増やし続けています。2005年に欧州条約が国民投票で反対されて、発行できなかったことや、ユーロがEU加盟国全体で使えない(ただし、非加盟国でもユーロ使用国もある)など、一筋縄ではいかないこともありましたが、ノーベル平和賞を受賞する等、欧州経済の発展、欧州社会の安定化に寄与してきたかと思います。

なぜイギリスは国民投票したの?

ではなぜイギリスがEU離脱を決める国民投票を行ったのでしょうか。これも歴史的な経緯をたどると、現首相のキャメロン首相が、2013年に、「2015年の総選挙で政権維持した場合、EU残留の是非を問う国民投票を17年末までに行う」ことを表明したことに始まっています。

ちなみに、その2015年の総選挙はキャメロン首相率いる保守党が、全650議席のうち、過半数を超える331議席を獲得。単独過半数を獲得することになりました。当初は保守党、労働党の2大政党ともに過半数には達しないのではという見方もあったものの、保守党が予想以上の強さを見せました。

その一端となったのが、EU残留を問う国民投票であった、という見方もできます。キャメロン首相自体はEU残留派でしたが、EU離脱派の支持を得るために、国民投票開催を表明し、離脱派からも一定の支持を得たことで、保守党の単独過半数につながったという見方もできます。

国民投票自体も元々EU残留派が勝つだろうと言われていたながら、最終的に離脱派がわずかとはいえ、上回ったことから、キャメロン首相としても国民投票では残留派が上回るだろうと考えていたかもしれません。

で、イギリスはEUを離脱できるの?

さて、ここから本題へ。ではイギリスは実際にEUを離脱できるのでしょうか。これまでEUを離脱した国はありません。スイスが国民投票で否決の例などEU加盟に対して加盟するかどうかという国民投票はあったものの、EUを離脱するという国はこれまでありません。

では、果たしてEUは離脱できるのでしょうか?

形式的な離脱方法

EUを離脱するにはどうするか?ですが、これは2009年発行のリスボン条約に書かれています。リスボン条約ではEU離脱の方法が初めて明記されたということなので、ちょっと見てみましょう。

リスボン条約の全文はこちらになります。何のこっちゃという感じなので、原文の離脱の該当箇所を抜粋してみました。

‘Article 49 A

1.   Any Member State may decide to withdraw from the Union in accordance with its own constitutional requirements.

2.   A Member State which decides to withdraw shall notify the European Council of its intention. In the light of the guidelines provided by the European Council, the Union shall negotiate and conclude an agreement with that State, setting out the arrangements for its withdrawal, taking account of the framework for its future relationship with the Union. That agreement shall be negotiated in accordance with Article 188 N(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union. It shall be concluded on behalf of the Union by the Council, acting by a qualified majority, after obtaining the consent of the European Parliament.

3.   The Treaties shall cease to apply to the State in question from the date of entry into force of the withdrawal agreement or, failing that, two years after the notification referred to in paragraph 2, unless the European Council, in agreement with the Member State concerned, unanimously decides to extend this period.

簡単にですが、大事なところを訳すとこんな感じでしょうか。

  1. どの加盟国も各国の憲法要件に従い、EUを離脱することができる
  2. EUからの離脱を決めた加盟国は欧州理事会にその旨を通知する。また、EUは欧州理事会のガイダンスに沿って、該当国と交渉し、協定を結ぶ。
  3. EU関連法は離脱協定が施行される日から、または協定が施行されない場合は上記の通知から2年後に停止される。ただし、欧州理事会の満場一致による決定があれば、期間は延長できる。

まとめると、

①加盟国は各国の憲法に沿えばEU離脱可能で

②離脱したい場合は欧州理事会に通知をすること

③で、2年経てば原則としては離脱できますよ

という感じ。(すんません、細かいところは省略してます笑。)

これを見ると、離脱するのは手続き上は意外と簡単にできるんじゃない?という感じです。

実質的な離脱の可否

さて、手続き上は問題なくとも、現実的に本当に離脱できるのか、はまた別問題。というより、現実を見ると、本当に離脱できるのか?ということの方が大きいと思います。

歴史的に見てもイギリスは1973年からECに加盟して、EUにも発足当初から加盟している国です。その間に作られたイギリスの国内法は当然EUと影響するものもたくさんあるでしょうし、それを全て変更していかなくてはいけないことになります。もちろん関係ないものもあるでしょうが、法体系を一気に変更するとなると、果たして上記の2年間という期間でできるのでしょうか。

で、国内法についてはまだましかなという気もします。大変なのはEU各国との協定。これまでEUに依存していたものをEU加盟国イギリスを除く27カ国と個別に交渉していって、EU加盟時と同等のものを作っていかないといけません。特に貿易関係はすぐにでも取りかからないといけないでしょう。とはいえ、貿易協定が簡単に妥結できるわけはなく、時間・労力ともに大変なことが予想されます。

例えば、日本のETA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)はこれまで2001年1月にシンガポールと交渉を始め、2002年11月に発効しています。現在まで16が締結済みですが、ほぼ1年に1カ国レベルです。これを、27カ国としていく、しかも2年というのはさすがに厳しいのではないでしょうか。

※なお、日本のFTAに関してはこちらを参考にどうぞ。

また、もちろん、EU外の国とも同様で、これまでEUとして結んでいた協定等をEU以外の国と結んでいくとなるとやはり大変。

これらをふまえると、少なくとも2年以内に、というのは無理があるスケジュールではないでしょうか。

手続き上離脱は可能だが、現実的な離脱は困難

というわけで、手続き上は離脱はさほど難しいことではなさそうですが、現実的な問題を考えると、離脱はかなり難しいのではないでしょうか。2年とありますが、少なくとも2年でできるほど簡単ではないように見えますし、もちろん離脱後、イギリスがどこまで信用される国として発展できるか、というのも分からない状況です。

最初にもあったように、離脱すれば、スコットランドは独立、北アイルランドはアイルランドへ統合となる可能性も高くなりますし、ますますイギリスという国家の立場が弱体化される恐れもあります。

こういう結果になった以上、後にはひけないとは思いますが、どうやってEUから早期に離脱するのか、あるいはどこかで方向転換するのか。

目が離せない展開になってきてしまいしたね。

 

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